月に一度のシンデレラ
ヒロ
「ヒロ!……宏之! 水筒!!」
土曜日の朝、9時30分。道場に向かおうとしたら、母さんが追いかけてきた。お気に入りの赤いつっかけサンダルをはいて、パタパタと音をさせながら。
「もう…! 走らせないでよ。母さんも若くないんだから…」
「ごめんごめん。行ってくるね!」
「いってらっしゃい。気を付けて」
道場までは 自転車で10分かかる。きょうは雪が降りそうなくらい寒いけど、だいじょうぶ。走ってるうちに体があったかくなってくるから。
じつはさ、柔道をはじめたのは母さんを守るためなんだ。ナイショだけどね。
おれはひとりっこだし、うちには父さんがいないしさ。強くならなきゃ、母さんを守れないもんな。
母さんの名前は万里子っていう。美人だし やさしくて、料理も上手。じまんの母さんだ。でもこのことも、ナイショ。あんまり母さんのことをほめると、また女子のヤツらから「マザコン」なんて言われるもんな。