月に一度のシンデレラ
「きのう、おれのパパが見たんだって。駅の近くで、会社の帰りにさ。いつもとぜんぜんちがうカッコしてたって」
「ふざけたこと言うな! たしかに母さんは、きのう仕事に行ったけど、いつもと同じかっこうだったよ」
「じゃあ、おれのパパが見たのは、だれだったんだろうなぁ。あの変身っぷりは、まちがいなく『夜の仕事』だってパパが言ってたぞ」
いつのまにか田村まで近くに来ていた。
「『夜の仕事』って、あやしい仕事だろ? 大変ですねぇ。シングルマザーは」
‘シングルマザー’。
その言葉を聞き終わらないうちに、おれはヤツらに飛びかかっていた。
「…ヒロ! どうしたのそのケガ!!」
家に帰ると、母さんはおれのほっぺたにくっきりついた三本のツメのあとを見つけて、大声をあげた。くそ。大沢のやつ、思いきりひっかきやがった。そのかわり、おれはアイツのおでこにひっかきキズをつけてやったぞ。おれのとおんなじ、三本。
「おれもやりかえしたから。きょうは、あやまりに行かなくていいよ」
「もう…もう…。どうしてケンカなんてするの…」
ああ、また母さんに悲しい顔をさせてしまった。ぜったいに大沢のせいだ。おれのせいじゃないぞ。