月に一度のシンデレラ
「良ちゃ~ん!」
彼との間にはまだ20メートルくらいの距離があったけど、あたしは飛び跳ねながら彼に手を振った。
良ちゃんは恥ずかしそうな笑顔を浮かべながら、大股であたしに向かって歩いてきた。
「マリカ、ひと月ぶりだね。元気だった?」
「うん!元気だったよ。会いたかった!」
あたしは背の高い良ちゃんに飛びついた。
「…マリカ、また痩せた?」
「わかる?ダイエット中だもん」
「これ以上痩せなくていいのに。俺のニャンコ」
良ちゃんはあたしのことをニャンコって呼ぶ。あたしの性格がネコっぽいからって理由らしい。こう呼ばれるの、けっこう気に入ってる。
「だってキレイになりたいニャン。良ちゃんのこと大好きだから」
「可愛いなぁ、ニャンコ」
良ちゃんが笑って髪を撫でてくれる。撫でられると、あたしは自分が本当にネコになったかのような錯覚に陥るんだ。
「早く抱っこして、良ちゃん」
あたしたちは腕を組んでホテル街に向かった。時刻は20時。2月の東京は寒くて、北風が吹くと震えあがりそうなくらいだけど、二人でいると寒さが気にならなくなるの。不思議だよね。
デートはいつもホテル直行。会うのは月に一度だし、ノリには「それってセフレなんじゃないのぉ?」なんて言われたけど、そんなことはどうでもいい。
「良太」だから、良ちゃん。あたしに本名を告げてくれているのかはわかんない。食品メーカーの社員だって言うけどそれもホントなのかビミョウだし。独身だっていう申告も怪しいと思ってる。34歳っていう年齢だけは、たぶんホントかな。
そして彼は、あたしが本当は万里子で、32歳で、おまけに9歳のコブがいるってことを知らない。
確かなのは、あたし達が心から愛し合ってるってこと。
そして、あたしと良ちゃんのおかげで、万里子は頑張れてるってことだ。