心見少年、音見少女。
一、ザワザワした春

暖かい風が桜の花弁と一緒に舞うように吹いている、四月の春。

新しいブレザーの制服に身を包んだ一人の十五歳の少年が、この学校、私立 三日月学園の門をくぐった。

―――この学園は小中高一貫で、全員寮で生活するため、春夏冬休みになるまで、家には帰れない。

つまり、問題が起こっても、家に帰ってはいけない。

門を出る時、少年は自分の左手をぐっと握りしめ、誰にも聞こえないように口の中で呟いた。

「……また何も起こらないと良いんだけど」

彼は、自分が数時間後に頭を抱えることになるなんてつゆ知らずに、期待を胸に校舎の方へと歩き出していた。



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