心見少年、音見少女。
一、ザワザワした春
暖かい風が桜の花弁と一緒に舞うように吹いている、四月の春。
新しいブレザーの制服に身を包んだ一人の十五歳の少年が、この学校、私立 三日月学園の門をくぐった。
―――この学園は小中高一貫で、全員寮で生活するため、春夏冬休みになるまで、家には帰れない。
つまり、問題が起こっても、家に帰ってはいけない。
門を出る時、少年は自分の左手をぐっと握りしめ、誰にも聞こえないように口の中で呟いた。
「……また何も起こらないと良いんだけど」
彼は、自分が数時間後に頭を抱えることになるなんてつゆ知らずに、期待を胸に校舎の方へと歩き出していた。
< 1 / 99 >