心見少年、音見少女。
「……あれ?」
入学式が終わると、生徒は昇降口で新しいクラスと生徒の名前が書かれてる紙を見る。
そして自分の教室が分かった者が、付き添いや保護者にしばらくの別れを告げ、次々に教室へ向かう。
そんな中、彼は自分の名前を見つけることができず、呆然と首を傾げていた。
指で辿って何回探しても、無い。
(おっかしいな……先生のミスかな……教室行けねーじゃん……!もうホームルーム間に合わないし!)
周りにはもう誰も居ない。焦りと不安で足が震えてきた、その時だった。
「おい、お前、倉橋 佐月(くらはし さつき)か?」
いきなり後ろから声を掛けられた。
少年―――佐月が驚いて振り向くと、同じ学園のブレザー服の少女が立っている。
(なんだ……?!今、全然『見え』無かったけど……?)
胸元に付いた細いリボンが紅色だから、自分と同じ新・高校一年生だ。
蝋人形のように表情も姿勢も微動だにしない。でも、春風で軽く揺れるプリーツスカートを抑える手で、彼女が生きた人間であると分かる。