心見少年、音見少女。
ノックもなしに、いきなり教室に入って馬鹿みたいなことを言い出したのは、白衣を着た長身の男だった。
三十代くらいに見える。目の下の隈と無精髭を無くしたら、おそらくそこそこ美形だろう。
でも、怪しさ満載の顔に、私は警戒心を持った。
見覚えが無いし、どう見ても教師ではない。
不法侵入らしい。来客用のパスを首に掛けていなかった。
「―――何しに来た?」
やはり警戒しながら、間地先生は能力をうっすらと発動させバリアを張り、生徒達を守った。
皆は、緊張感が無く、避難訓練の一種だとでも思ったらしい。きょとんとした顔で男に視線を注いでいた。
「いえ、だから生徒さんを一人……」
「用件じゃねぇ!生徒を連れてってどうするつもりだ?!」
「……」
「答えろ!」
無言のまま男は、バリアをあっさりと破り、私の隣の席の女子を盗むように担いだ。
「きゃ?!」
一番窓際の、前から二番目の席の彼女、初等科三年生の錫高野 天見(すずごうや あまみ)は、小柄で軽い為、抵抗も虚しくそのまま連れて行かれた。
「天見!」
「せんせー!」