心見少年、音見少女。
最初に『ココロミ』だと思われる生徒が編入すると先生から聞いて、どんな頭の悪い輩だろうと思っていた。
数年前に伝説を聞かされた時から、どうせ心を読んで『オトミ』を上手く堕とす、ふしだらな奴だろうと思っていたから、佐月と初めて会った時も乱雑に扱った。
無理矢理引き摺って、目を逸らして、ツンとした態度をとって。
その内親しくなったら、弄ぶんだろう。
だったらこちらから嫌われるよう仕向けてやる。あんなハッキリしてない伝説なんてものも、きっと嘘だ。
ところがどういう事だろうか。
この『ココロミ』は弄ぶどころか、心から笑い、いちいち些細なことでビビり、終いには伝説を聞いただけで赤面するほどの純粋野郎ときた。
もしかしたら良い奴なのだろうかと思い、X組のルールである名前呼びを許可したら、あいつは邪気の無い笑顔を向けてくる。
……これではこちらの調子も狂う。
でも、だからこそこれは、恋なんかじゃない。
たった一日で恋に落ちるなんて、そんな訳が無い。
ただの錯覚だ。驚愕と緊張を間違えているだけ。
佐月は友人。それ以上でもそれ以下でもない。
突然こんなことに巻き込んで、最初は疑っていたからとはいえ失礼な態度をとってしまった。
そういえばまだ謝ってなかった。事が落ち着いたら謝らなければ。