溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
そっか。
私と偽りでも、日本から戻るときには、その子と本当に婚約しているかもしれないもんね。
私がケイリーさんに頼む必要もなかったかもしれない。
私は、彼女のいない『今』だけの存在なんだから。
「だから、キミとのビジネスは見送らせて欲しい。キミとはどうも考えが合わなくて」
きっぱりとそう言いのけた彼は、少し躊躇してから、それでも拳を強く握り締めて言う。
「女性を傷つけるような男は、信用できない。争わせ、一方を捨てるような男は」
ジェイドさん……。
偲び足で近づいて、盗み聞きしていたくせに。
私の足は加速した。
気づけば、飛び込むように後ろからジェイドさんを抱き締めていた。
「ナホ?」
『七帆? 七帆がそこにいるのか!? お前、七帆を』
「切って」
受話器から洩れて来る聞き覚えのある声に、強い拒絶反応が出た。
「そんな電話、切って」
後ろから抱き締めて、携帯を持つ腕に指を絡ませる。