溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~

現実に引き戻さないで。
まだ、このままで居たいから。

ジェイドさんは、正面を向いたまま、電話を切ると床へ力なく携帯を落とした。

背中を抱き締める。
強く彼の匂いを吸いこむと、甘くて切なくて、なんだか涙が込み上げてきた。

「すまない。うたた寝をしてしまい、物音で起きたらキミが何処にも居なくて、探していたら電話が」

「ううん。いいの。こうして探してくれるだけで。――ありがとう」

「ナホ」

後ろからしがみ付いて、腰に回していた手を掴まれる。
彼の体温は温かかった。

「すまない、電話は――」

「いいの。言わないで。お願い」

聞きたく、なかった。

今は、そんな話、聞きたくないから。
だから、振り返ったジェイドさんの胸へ飛び込んでいた。

抱き締めて抱き締めて抱き締めて、今はただただ強く抱きしめて、

抱きしめ返されたい。

不安ばかりが生まれてくる夜。
貴方と体温が欲しい。
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