溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「どうした?」
「ちょっと……寂しくなっただけ。ちょっと思い出しただけ」
ジェイドさんは、私が何処に行っていたのかも聞かなかった。
ただ、寂しいとジェイドさんの胸に飛び込んだ私を受け止めてくれた。
少しでも不安が胸を過りと、夜の闇が、その不安を増幅させていく。
暗闇に隠して、いつの間にか同化していく。
だから、強く抱きしめて、闇に染まらないように同化しないように、
その胸にすがった。
今日だけ。
今日だけだ。
振られて惨めな醜態を晒した私が鮮明に思い出されてしまったのは、
その電話の向こうの声のせいだ。
きっと、それだけだ。