溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
自分勝手な言いわけを言っているのに、涙を溢れさせた目で甲斐を見上げている。
「甲斐君のお嫁さんにしてください。――もう遅いとか言わないで」
「ありさ」
甲斐の表情がほだされていくのが分かる。もうずっとずっと傍に居た相手だもんね。
別れては復縁を繰り返す馬鹿なカップルだもんね。
私が甲斐なら、元カノがウエディングドレス姿で現れたら引くけど。
甲斐が、元カノの肩を抱き締めて髪を撫でた後、シーツに包まっている私を見た。
「七帆」
名前なんて呼ばれたくなかった。
そんな悲しそうな目で、私を見て欲しくなかった。
さっきまで耳まで真っ赤にしていた甲斐の姿はもうない。
「こいつ、こんな馬鹿だから――俺じゃなきゃ駄目だ」
はは、と力なく笑って元カノを強く抱き締める。
「ごめん。幸せになってくれ。――七帆、ごめん」
次の瞬間、私はベットから立ち上がって部屋から飛び出していた。
自分の無様な姿も忘れて。
追いかけてくれる人もいない、パスポートだって部屋にあるんだから行ける場所もない此処で。