溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~


私一人が、途方もなく惨めだ。


此処まで来たのに、甲斐が選んだのは彼女で。
二人の馬鹿な喧嘩にただ巻き込まれただけなんだと思ったら、シュワシュワと8年間の気持ちが消えて行った。

海の泡みたいに、簡単に。


「おっと」

前を見て走っていなかった私は、廊下に飛び出した瞬間に男の人の懐へ体当たりしてしまいそうになった。

「あぶないですよ? 大丈夫ですか」

両肩を支えられて、体当たりは免れたけれどセクシーな甘い匂いに思わず顔を上げてしまった。


「お嬢さん?」

飛び込んできたのは、翡翠色の瞳。私を心配そうに覗きこんでいる。
褐色の肌の、黒髪が襟あしまで少し掛っている、外国人だ。
落ち付いているけど、年だって私たちと変わらないと思う。

日本語が流暢すぎて気付かなかったけど。


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