溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「そんな恰好でどうしたんですか? 女性をこんな姿で廊下へ飛び出させるなんて」
優しい。
少し低くてハスキーなトーンで綺麗な日本語を話されると安心して泣き出してしまいそうになる。
「……りたい」
「ん?」
「早く日本に帰りたい。こんなところ、もう一秒も居たくない。帰りたい。帰りたた……」
本音が漏れると、涙も止まらなかった。
止まらなかったのか、彼の瞳が優しそうでつい本音が涙と共に零れてしまったからか。
足の力が抜けてしまい、その場でへなへなと座り込んだ私に、その外国人は跪き自分の着ていたコートを肩に羽織らせてくれた。
「それが貴方の願いならば。ちょっと待ってて下さいね」
そう頭をポンポンと優しく叩くと、彼は立ち上げり私が飛び出した部屋へ入って行く。
「すいません。彼女の荷物は何処ですか?」
「え、あ、あんた誰?」
「うわ。格好良い」
戸惑う二人の声に、彼はただ笑って答えない。
部屋ではお楽しみに入ろうとしていた所かもしれなくて私は怖くて振り返れない。