溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「あんなに酷い別れ方をした甲斐のこともしっかり仲裁していて、――妬けたな。酷いことをされても、ナホの心からあいつを消してやれないなんて」
「ジェイドさん、酔いすぎだよ」
でもワインを飲む前もちょっと様子が変だった。ジェイドさんは御酒を飲んで飲み込もうとしていた感情が、酔って沸き出てきたのかもしれない。
「勇敢に俺と甲斐の間に立ちふさがってくれたのは、一体どっちの為なんだ?」
「どっちの為とかないよ。強いて言うなら自分にもやもやが残らないように、自分の為かな」
酔っ払いに真面目に返答するのもどうかと思いつつもそう告げる。
すると、腕を掴んでいたジェイドさんの手が今度は肩を掴み、自分の方へ寄せた。
「寝ぼけて――もう」
「どうすれば、ナホの中からあの男が消えるのだろうか」
引き寄せられて、ジェイドさんの胸へ顔を埋めてしまった。
驚いてすぐ、そのまま顔を挙げると、ジェイドさんの顔が近づいてきた。
「ひ、ゃ」
首筋に、ひやりと冷たい何かが輪郭をなぞる。