溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「本当ですか! じゃあ、二時間前にお願いします」
『畏まりました』
「忘れていた」
私とケイリ―さんの話を隣で聞いていたジェイドさんが、そうぽつりと言う。
「忘れてたって酷い! 最後の夜なのにシンデレラにも変身できないなんて」
「きっと、時間が止まればいいのにって思っていたからだ」
力なく、ジェイドさんが笑う。
「やっと、ナホを分かり始めたから。大根蜂蜜や、喧嘩の仲裁、運動神経が良い事とか――」
言いながら、今日までの事を振り返っているのか段々と遠い目をするようにバルコニーのほうへ視線を映した。
「もっと知るには、時間が足りない。だから、認めたくなかったんだ。頭では分かっていても、心が」
私を知りたいと、歩み寄りたいと彼は困った顔で言う。
彼の眼には、私は一体どんな風に映っているんだろう。
もう、泣いて可哀想だった女の子だとは流石に思っていないのかな?
今、貴方の目に映っている私は、きっと全部貴方が形をなぞってくれた私だ。