溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
私の、やさぐれて可愛くない発言に嘆息しつつも奥の部屋に荷物を取りに言ってくれた。
手持無沙汰に指を動かすと、指輪が無くなった分動かしやすくなった指先が寂しそうに見える。
再就職先探して、可愛いネイルして、ボルダリングでも趣味で始めて――恋愛なんてする暇もないぐらい、彼の事を考える暇もないぐらい仕事やオシャレや趣味に没頭してやる。
「うわっ」
奥の部屋でゴトゴトと大きな音がして、甲斐の驚いた声がした。
荷物でもひっくり返ったのかなと様子を見に行くと、そこには。
「嘘」
船長服姿のジェイドさんが、肩の埃を落としながら立っていた。
いや、一体何処から入って来たの?
「非常口から、空調を辿って強行突破させていただいた。驚かせてすまない」
「――何のようですか?」
今さら、――昨日の今日で今さら、何を話す事があるのだろう。
「Mr.甲斐、少しだけ席を外して頂いてもいいかな?」
ジェイドさんは私から視線を離さないまま。そう告げた。
甲斐も苦笑しつつ、黙って部屋から出て行く。
その苦笑はどういう意味だろう。