溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~

シースルーエレベーターと、吹き抜けホールには、もう人が並び始めていた。

その人たちを横目に、スワロフスキーが贅沢に散りばめられてガラスの階段をゆっくりと降りて行く。
このまま降りて、デッキから向かう先にあるのは乗船カウンター。先ほど私がパスポートの申請をしてヘリで帰る峰を伝えた場所だったから分かる。

その場所へ向かうデッキまで、皆の注目を集めながら歩いていく。


「どういうつもりですか?」
「理想の恋と言うのがずっと分からなくてキミを傷つけてしまって本当に申し訳なく思っている」

悲痛な顔でそう言われて――言葉に詰まってしまう。

「本当は、――1度だけ酔って寝ぼけてふりをしてキミの身体から甲斐の匂いを消そうと唇を寄せた。あの時の勇気のない俺を殴ってくれて構わない、ナホ」

階段の中央で止まると、私の顔を覗きこんで、悲しげに微笑んだ。

「勇気がある女性だ。甲斐にも泣き顔を見せないように、初めて会った日も一人で泣いていた。――昨日も一人で泣かせてしまった。理想に縛られて本当の甘い恋も知らない俺のせいで。本当に許してくれ、いや、一生許してくれなくてもいい。一生、傍に居させて欲しい」

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