溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「う、嘘だ。信じられない」
「どうして?」
「理想の女性でなくても、――『サクラ』さんが大切だって言ってたもん」
「サクラ? サクラは俺の世界で一番の姪だよ」
「姪?」
「ああ。弟の子。弟がいっぱい写真を送って来るんだ。可愛くてね。彼女に会いたくて日本へのチケットを用意したぐらいだ。一歳にまだなってないけど、彼女はとびっきり美人だぞ」
姪……。
世界で一番、大切な姪っこ。
私が呆然とする中で、ブラウさんだけが『ぷぷっ』と笑っていた。
彼はこれを知っていたから、私に色々聞いていたんだ。
「だから、この指輪を」
「信じられない! どれだけ私が悩んだと思ってるの! 馬鹿みたい」
「ナホ!」
跪いたジェイドさんから、またホールへ戻って階段を登って逃げだすと、コンシェルジュたちから喝采が上がった。
「船長! 頑張って!」
「早く彼女を追いかけるんだ」
口笛や拍手、ブラウさんなんて花弁まで蒔きながらジェイドさんを囃したてる。
シンデレラが階段を逆走して戻って行くなんて聞いたことがない。
私はきっと一生、お姫様なんてなれないんだ。