溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
その辞令はまだ会社から正式に聞いたわけではなかったけれど、英国へジェイドさんが帰国する当日、会社へ挨拶に伺ってくれることになった。
プライベートが優先、と断っていた彼がだ。
私は朝まで一緒に居たのに、その話を本人から聞かされていなかった。
なので、私は辞令前にも関わらず、ジェイドさんの指名も重なって初めて本社へと向かった。
本社で私の上司として紹介されたのは、甲斐と一緒にヘリで乗り込んできたあの人ではなくパンツスーツをスラッと着こなすショートカットの女性だった。
ジェイドさんよりちょっと歳は上だと思う。
けれど、多分甲斐の差し金だと思う。
ジェイドさんは女性には優しい生き物だから。
「美山さん、背筋が曲がってる。もっとピシッと伸ばして。ほら、スカートのプリーツが曲がってる。アイロンちゃんとかけたの!?」
小声で説教されながら、私は慌ててスカートの皺を伸ばす。
「ビクビクキョロキョロしないで」
「だって、本社なんかに来るの初めてなんですもん。広すぎて、もう帰りたいです」