溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「キスも初めて?」
そう言われ、顔が真っ赤になってしまう。
キスは、初めてじゃない。幼稚園ぐらいの時に誰かときっと卒業しているけれど、でも。
「キスは、本当の婚約者として下さい!」
押しのけてそう言うと、捨てられた子犬のような瞳で私を見てきた。
そんな目をしても、今キスするのは違うと思う。外国人の挨拶とは違う意味のキスだろうし。
真っ赤に火照る顔で睨みつけると、観念したかのようにジェイドさんが溜息を吐く。
それと同時にブザーが鳴って、ケイリ―さんが朝食を届けてくれた。変えのバスローブも二着も用意して、昨晩の事には何も触れない笑顔が眩しかった。
少しまだ頭痛がしたので、バルコニーで潮風に当たりながら食べるサラダと紅茶は美味しかったけど、少し寂しげな横顔のジェイドさんとは、上手い距離が分からずにいた。
一緒に婚約者になりきって楽しむのは違うと思う。
どこまで、近づいてもいいのかが私には見えなかった。