溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
彼の邪魔な存在には、なりたくないんだけど、な。
くすぐったくて、でも重たいこの翡翠色の指輪を見ながらそう思う。
「ナホ、そんな恰好で外に出るのは、寒いよ?」
シャワーから上がったジェイドさんが髪を拭きながら私にストールを持って近づいてくる。
濡れた髪が、よく拭けてなくて頬を伝っている。
「ありがとう。なんだか豪華な雰囲気に酔っちゃって。冷ましてから寝なきゃ眠れないの」
「豪華な雰囲気?」
いちいち首を傾げるジェイドさんには一般市民の気持ちは分かるはずもない。
あの世界が、貴方には日常なのだから。
「先にベットに眠ってしまうかもしれないがいいのか?」
「ええ。どうぞ」
「置くのツインのベットじゃなくて、隣のキングサイズのベットでキミを待っておくよ?」
「ツインで寝て下さい」
何でわざわざ私がジェイドさんの布団に潜りこんで一緒に寝なきゃいけないの。
「駄目?」
「駄目です。お休みなさい」
きっぱりと断ると、ストールを肩にかけてくれながらもジェイドさんは少し考え込む様子で此方を見た。
「日本人の『駄目』は本当は、良い時でも言うらしいけど」