溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
ノックしようとした寝室は、まるで私を待っているかのように扉が開け放たれたままだった。
「もう」
「……ら」
部屋の様子を覗こうとしたらジェイドさんの声がした。
「起きてるの?」
「ああ。……こっちへ来て、抱き締めさせてくれ」
「まあた、そんなこと――」
「サクラ」
その言葉に、私の思考が機能停止する。
何? サクラ?
「可愛い俺の――」
そう言いながら寝息へと変わっていく。
サクラ?
私の名前にかすりもしない。
それが、それが本当に貴方が大切にしている日本にいる女性の名前なの?
現実が押し寄せてきて、偽りだって分かっているのに。
本当のお姫様みたいに扱われていた私の心は、重く影を落としていく。
それ以上は何も聞きたくなくて、彼の居る寝室の扉を静かに閉めると、ツインのベットがある部屋へ向かう。
ぐるぐるする。
私は、私はちゃんと眠れるのかな。
七日間だけ、その言葉に蓋をしよう。蓋をして、忘れてしまおう。
そうじゃなきゃ、上手く笑えなくなるから。