溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
温水プールの隅っこでは、外国人のカップルがまるで水泳選手のように何往復も泳いでいる。
窓の向こうには、キラキラ輝く朝日と海が見えるのに、わざわざ中にプールを作り、その中で浮かんでいるのは聊かシュールにも感じた。
25メートルプールが6レーンと豪華客船にしては小さく感じたけれど、
ハイビスカスの花弁が浮かぶ水面に、小さなボートを浮かばせてジェイドさんが泳ぐのをただただ眺めていた。
「たまにはゆっくりするのもいいな。船内じゃ、ずっと船長としてきりっとしていなければいけないから疲れる」
「え? いつキリっとしてた? 最初に私をさらってくれた時ぐらいしか知らないわよ」
へらへらと笑うと、『そうだ』と思いだしたらしい、ジェイドさんが私の元へ泳いでくる。
「キミは、『WKJグループ』旅行会社を知っている? 日本で最大の旅行会社らしいけど」
「ええ。私、そこの都内の支社で事務してるもん」
「もしかして、キミを傷つけた男はそこの御曹司?」
鋭い発言に、苦笑いが浮かんだけれど素直に頷いた。