溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~


船に、クジラが近づいてきたらしい。仲間かと思って、一緒に隣を泳いでいるらしい。デッキには、その姿を見ようとビデオカメラを持った人たちで賑わっているらしい。

全部『らしい』がつくのは、私が実際に見たわけではないから。
実際に見れる状況ではないから。
空は抜けるような真っ青で、気温もプールに入るには最適で。
きっとデッキでは、クジラが尾を海上に出したり、潮を吹くだけでも大興奮して騒いでいるんだ。

「別に、見たいわけじゃないもん」

思わず、良い歳の癖に『もん』と言ってしまうのは、熱があるせいだ。

午前中のプールの後、冷たい水でシャワーを浴びて、バルコニーで涼んでいたら、きっと慣れない豪華な暮らしからの緊張も出たんだと思う。

何だか頭も痛くて、ふらふらしてベットへ向かい重い身体を引きずって倒れこんでしまった。
お昼に一緒に、ロコモコの美味しいお店に行こうとか言って予約してくれていたのにちょっと無理かも。

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