溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~

甲斐だって優しかった。
誰にも弱いところを見せられなくて、一人でバスケの試合の跡に泣いていた私を、彼だけ気付いてくれて。
爪が割れて泣いている私を、抱き上げて保健室に運んでくれたあの日。
私に初めて舞い降りた電流が、甘く胸を締めつけていた。

でもたった一晩で、その気持ちが消え去ることだってあるんだ。
あの夜、ウエディングドレス姿で乗り込んだ彼女を抱き締めた甲斐を見て、本当に甘い気持ちが消えて行った。
私の心の中から消えて行った。
そのまま貴方がやってきたのだから、私は一体どうしたらいいの?

駆け引きも人を好きになる方法も知らない私に。

「一人で寝ていたい。ごめんなさい。ちょっとだけ眠らせて」

これ以上みっともない所を見せたくなくて、逃げた。
まだ三日しか経っていないのに、こんなに心を揺さぶられていく。
謝ることしかできない、こんな弱い私が大嫌いだ。

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