溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~

「俺の事は気にしなくていい。今は、ゆっくり休んで。まだ俺の船を案内し終わっていないのだから」
大根を探して船を右往左往したことが恥ずかしかったのか、女の前ではスマートに行動している事をアピールしたかったのか、ジェイドさんはバルコニーに逃げようとした。
だから、私は服の裾を急いで握り締める。
「待って、行かないで」
「ナホ」
「眠るまで、傍にいて?」
一人にしてと言ったり、傍に居てと言ったり、私のいい加減な言葉にも、ジェイドさんは嫌な顔をしなかった。
「昔話でも、しようか」
走って乱れた髪を掻き上げながら、壁に並べられていたソファをベットの傍まで引き寄せて、据わると長い脚を組む。
「俺が10歳の頃、母が病死した」
唐突に始まったその話は、どんな顔をしていいのか悩む話題で。
何故、彼はこの話にしたのか。
私に聞いて欲しかったの?
「身体が弱い人だったから、あんな苦しむぐらいなら、俺は安らかに眠れて良かったと、悲しい別れを乗り越えた。だが、女性を見ると、母の様に優しく守ってあげなければいけないと強く思ってしまう。もう、俺に染みついた約束の様なものだ」
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