捕食者の目


目を閉じると思い出す。

ろくな思い出なんてなかったはずなのに、どうしてか彼のことばかりを馬鹿みたいに毎日、毎日思い出す。もう終わったことなのだからとどれだけ自分を納得させようとしても、脳みそは言う事を聞いてくれない。

来週からテストだとか、大好きなアーティストが新しいアルバムを出しただとか、駅前に出来たクレープ屋さんの評判がいいだとか、考えたいことも考えなくちゃいけないことも私にはたくさんあるはずなのに、どれひとつとして頭に入ってこない。

理解することと、それを納得することは別なんだと初めて知った。本当に、厄介だ。


「そんなに好きなら、別れなきゃよかったのに」


私の話をどうでもよさそうに聞いていた親友が、呆れた声でそう零す。こげ茶色の長い髪をくるくると指に巻き付けて、毛先を弄る指先に塗られた水色のマニキュアが綺麗だった。


「そもそも、あんたたちが付き合ってたっていうのが信じられないわ。あいつ、めっちゃモテるし女癖悪いって評判じゃん」


私だって信じられないけど、それでも確かに私たちは“付き合ってた”はずなんだ。


「一緒に帰ったりとかしてなかったよね?休みの日に会ってたりしてたの?」


そう、ただの一度だって一緒に帰り道を歩いてはくれなかった。最初は私と付き合っていることを周りに知られたくないからだと思っていたけど、違かった。単に他の女の子が放課後の彼を予約していたから、私が入る隙間がなかったんだと知ったのは、付き合ってしばらく経ってからのことだった。

休みの日だって、「ごめん今日やっぱり行けない」の一言で、理由も教えてもらえないまま何度もデートをドタキャンされて、映画やら遊園地やらたくさんのチケットを無駄にした。


「……それって付き合ってたって言うの?」


そんなの私が聞きたいよ。
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