捕食者の目
私は確かに彼に告白して、彼はそれに頷いてくれた。いいよって笑ってくれたはずなんだ。
だけど、付き合っていたのかどうか、重要なのはそこじゃない。今となってはそんなこと、正直どうでもいいんだ。彼と私の関係についていた名前はどうだっていい。
だけど、どうしても思い出す。まぶたの裏にこびりついて離れない。
時々、本当に時々だけど、お昼休みの短い時間、屋上で二人並んで話したこと。横顔と、菓子パンを齧る白い歯。たった一度だけ重ねた唇が、オレンジジュースの味だったこと。
つまらなそうに相槌をうつ低い声、じゃあね、の一言で私を置いて行ってしまう広い背中を、私は忘れることが出来ずにいる。
「目が合うの、あれからずっと」
「目?」
「別れようって言った日からね、毎日、目が合うの。最初は気のせいだって思ってたんだけど、でも、きっと気のせいじゃないの、いつも」
私が彼を見るといつも、彼も私を見ているの。
隣にいても、キスをする瞬間だって、一度も私の目を見なかったくせに。さようならをしたあの日から、嫌になるほど目が合うの。
何も言ってはくれないし、すぐに逸らされてしまうけど、確かに、彼は私を見ている。
あの日からずっと。