怪盗ダイアモンド
「みーつけた」
「え?」
ギャラリーがざわめきながら天井のダミーを見送る中、ゴーグル風眼鏡の娘だけが、展示室の出入口を出ようとしていた『本物』の私の肩を掴んでいた。
『女の子』と『女性』の中間くらいの年齢だろうか。ただでさえ背が高い私よりも高身長だけど、年は私とそう変わらないくらいだと思う。
あれ……?なんだか聞き覚えのある声だな。気のせいかな?
「簡単に読めたよ。ダミーを予め二つほど用意しておくだけで、人間は騙されるんだよな~」
「……どういう意味です、Lady?」
黒マントのフードで顔を隠すのとポーカーフェイス、それから低音ボイスも忘れないように、私は言葉を返した。
「人は、一つが偽物なら、もう一つは本物だって思い込んじゃうんだよ、もう一つも偽物だとは疑わない。
だから、ダミーを二つ放っておけば、大抵の人間はそのどちらかに集中してしまい、その他への注意が疎かになる。あんたはそれを狙ったんだろ?」
おお、当たってる。
淡々と流れるように話してる最中も、彼女は手に力を込めて、私を逃してくれない。
私はジャケットのポケットに入れたブローチを、外から軽く握った。
「そして、この展示室は特殊な作りで、中からだと出入口が分かり難くなってる。こっそりそこから出りゃ良いのさ。今のあんたみたいにね。さっさと出れば、誰にも気づかれない」
「ほう。それでは、私はどうやってこの魔法の輝きに満ちた密室の出口を見つけたのでしょう?」
う、ちょっと例えがキザっぽ過ぎたかな……まあいいや。彼女の推理を聞いておこう。
「この展示室の天井だよ」
彼女は私の肩を掴んでない方の手で、上を指した。
「天井のステンドグラスの女神は、光を掴もうとして手を伸ばしてるね。光ってのは、出口。つまり、手を伸ばしてる方が出口ってわけさ。ほんとは警察関係の人間しか知らないはずだけど、まぁ、自力で見つけたんだろ」
そう。私は偵察に行った時に、この法則に気付いた。
私はまだ余裕という風に、口の端を上げた。
「展示室は筒みたいに円い造りな上に、あんたみたいなドロボーが逃げられないよう、床が逆方向に超ゆっくり回る仕掛けになっている。
警察らは天井の仕掛けに気が付かれないと思って、出入口の警護が無かったんだろうな」