怪盗ダイアモンド
また阿弓side
【また阿弓side】
一瞬、ほんの一瞬、あの怪盗が蝶羽に見えた気がするけど……気のせいだよね。
怪盗ってのは、変装も得意だろうし……
外に押し出されてしまった私は、中に戻って落ちたゴーグル風眼鏡を拾い、かけ直した。
ちょっと踏まれたのかな。なんか歪んでる気がする。
中に戻ると、館内は随分と散らかっていた。看板やら壁に貼ってあったチラシやら、片方脱げた靴やらで、強盗に荒らされたみたいになってる。
実際は強盗じゃなく、怪盗のせいだけど。
それらを踏まないように、爪先立ちでステップを踏むように進みながら、私は展示室へ向かった。
「アユさん〜!!」
朝妃がトテトテと駆けて来た。
私と同じく落ちた物を踏まないようにしてるみたいなんだけど、なぜかパタパタと手まで動かしてるから下手くそなバレリーナみたい。
「あぁ、アサヒ?どーしたんだよ?」
「展示ケースに点いた火はぁ~、マジック用の消えやすい火だから〜、もうスプリンクラーと消火器だけで消えちゃったよぉ!」
「ありゃ、そうなのか」
「ありゃ、じゃないよぉ~!消火の手伝いであたし達全然宝石の警護とかに回れなくてぇ、結局盗まれちゃったじゃん~!どうしよ〜!」
「まぁ、細かい捜査とかは日が昇ってからで良いんじゃないの?もう日付変わってるし」
「?アユさん〜、なんかやけに冷めてないぃ?」
……やっぱり、まだ私は怪盗ダイアモンドが蝶羽じゃないかと疑ってるみたいだ。
親友を疑うなんて、酷い人間だと我ながら思うけど……あれはもしかしたら変装じゃないんじゃないか、素顔なんじゃないか……
蝶羽とは中学の時からの仲だ。
見間違えるわけがない。例え変装だとしても。
……でも……
「……そんなことねーよ!さ、証拠が残ってないか探そ!ユーリとコトノは?」
「中でパニクってるぅ~」
「あーもー、しょーがないな!!今から私も行くから!アサヒも片付け手伝え!」
「は、はぁい〜!」
今は仕事である調査や片付けに専念するのみ。
―――あとで考えよう。
私は朝妃の手を引いて、展示室へ戻った。