怪盗ダイアモンド
★夜が明けて
「ニセモノね、と言うより、エインセルじゃないわね」
あー、やっぱりそう簡単には見つからないか……
あれから数時間後。
博物館から上手く逃げた私は、母さんの乗る車に素早く乗り込んでから着替え、帰路に着いた。
そして今、裏庭に出て盗った宝石を朝日に翳したんだけど、大ハズレ。輝きが増すばっかりで、妖精の姿は全然映らなかった。
「まぁ、これからよ。飛翔の呪いもまだ完全じゃないから時間もあるし」
とは言っても、心配。早く兄さんを助けたいよ……
「蝶羽」
噂をすれば!
後ろから張本人が、元気づけるように拳で私の肩を軽く叩いた。
私は満面の笑みで振り返る。
「兄さん!身体は大丈夫なの?」
「ああ、今は大丈夫……だけど」
困ったような表情を浮かべながら、兄さんは付けてた指なし手袋を外した。
左の手の甲に、バラの花みたいな痣が浮かんでる。
「これは……」
「これが例の呪い。最初は手の甲のバラの痣だけだけど、本当のバラの花みたいに枝や葉を伸ばして全身に絡みつき、いずれはそこから呪いが回って俺は死ぬ」
「死……?!」
「エインセルさえあれば、治るけど……日本にあるとは限らないし、見つかる頃には俺は多分死んでるよ」
諦めたような、ちょっと残念そうな笑みを浮かべる兄さん。
―――なんでそんな顔するの。
「大丈夫だよ!私、絶対見つけるから!」
「でも……怪盗やるの、嫌だろ?」
端麗な顔が、捨て犬のような表情になる。
「もう嫌じゃないよ!それ以上に兄さんを助けたいの!」
「……ありがとう」
そう言って、兄さんは私を抱きしめてくれた。
あぁー、もー!!兄さんかっこ良すぎ!
「蝶羽はほんとに昔から飛翔が好きねぇ~……そんなんじゃ一生彼氏出来ないわよ?」
「別に良いよ~兄さんがいればそれで良い」
いやほんとに、マジでそう思ってる。
確かに、阿弓や亜希乃にはブラコンって間違えられるくらいには好き。
「……蝶羽が良くても、それじゃ俺が彼女出来ないんだけどなー……まぁ、死ぬかもしれないから良いか。
あ、そうだ、一つ報告があるんだった」
「報告?何?」
「TGGの事」
「!」
てぃーじーじー!
あのゴーグル風眼鏡の彼女が漏らした言葉に、私は過敏に反応してしまった。
「あの団体は、『TreasureGuardiansGirls』、『トレジャーガーディアンズ女子部』の略で、宝(大切なもの)を守ったり、スパイみたいな仕事をしてる超極秘団体なんだって」
……超極秘の割に、阿弓(らしき人)はポロッとこぼしたけど。
「へー……それで、そのメンバーに阿弓はいるの?!」
思わず、胸ぐらをつかむ勢いで兄さんに詰め寄ると、たじたじになって答えてくれた。