怪盗ダイアモンド
僕は一つ、ため息を吐く。
「あのさ、別にもう良いんだよ?それでお前が身体壊したら、元も子もないじゃん」
「嫌!絶対嫌!!私、止めないから!」
キッと僕を睨みつけ、書類を元のように積み上げる彼女。
癇癪を起こしたように、高く掠れた声で言葉を紡いだ。
「私は私が許せないんだよ!!……周りからもう良いって言われても、私のせいだってことには、変わりないんだから……それに……私にとってもほんとに大事だから……これは私が決めた事だから、止めないで!!」
「……そっか」
書類を綺麗に積み直すと、今度こそ立ち上がり、歩き出した。
僕もそれについていく。また倒れられたら大変だ。
「今度は何やるの?」
「……細胞と血液循環のチェック、それから皮膚が腐敗してないかと脳と脳波の動きの確認。あと、ちゃんと『連動』してるかどうか」
「……忙しいね」
「それ、貴方が言っちゃう?」
彼女がふふっと、柔らかく笑う。
やっと笑ってくれた。
そうして、喋ってるうちに一つの装置の前に着いた。
中には、炭酸水みたいに泡立つターコイズブルーの液体に……あちこちチューブが繋がれた、『生命体』が浸かってる。
コポコポと水音を立てながら、特殊マスクを付けた口から泡が出てる。
「……もう、ビックリしないんだね」
持ってきたノートパソコンにデータを打ち込みながら、彼女は僕に質問を投げかける。
「まぁ、もう慣れたし、お前も頑張ってるからね」
「……そういうもんですかねぇ……一応聞くけど、身体に痛みとか痺れとか、無いの?」
「全然無いよ。お陰様でね」
腕を軽く回したり、その場で飛んだりするけど、なんともない。
「そっか。ふむ、意外としっかりしてるもんだねぇ……自分の才能が恐ろしいわー」
―――ついさっきまで自虐的な発言をしていた奴と同一人物とは思えないセリフだ。
まぁ、調子が戻ったなら良いけど。
「……取り敢えず、元気そうでよかったよ。僕は帰る。また来るから。ちゃんと食事と睡眠は取れよ、あと大学の方で風呂とか借りなよ、同年代の友達増やせよ!」
「最後のは、余計なお世話!別にぼっちじゃないし!ちゃんと友達いるもん!」
ベーっと舌を出す彼女に背を向け、僕は出口を目指す。
「あ、そうだ、いつも言ってることだけど―――」
後ろから、彼女の声が聞こえた。
「絶対、『恋愛』はしないこと。良いね?」
「あぁ、分かってる。大丈夫だよ……」
「特に、『アリス』を好きになったりなんてしたら……」
「大丈夫、そんな事しないさ。じゃ、またね」
シュンっとドアが開き、僕は地下室を後にした。