怪盗ダイアモンド








ある程度の挨拶を終えると、私達は美術館に入館した。

入口には中世ヨーロッパを思わせる豪華な装飾が施されている。

それをくぐり抜けると、たくさんの名画たちが視界に飛び込んできた。

この美術館は、上から見ると『自』の字みたいに見える造りになっている。一角目の部分が入口ね。

だからどこから見ても似たような壁があちこちにあり、気を抜くと迷子になりそう。

瀬川さんはここによく来てるらしくて、迷いにくいルートや、正しい周り方を教えてくれた。

とりあえず、六人もぞろぞろ歩いてたら周りに迷惑になるから、間隔をあけて一緒に回ろうという話になり、皆それぞれのパートナーとくっついた。

一番前が亜希乃と瀬川さんのカップル、真ん中に榊兄妹、最後に私と音遠くんのコンビ。

「あーぁ、じーさんばーさんばっかで、かわい子ちゃん全然いねぇや、つまんね」

颯馬さんの言う通り、美術館にはたくさんの人が来てたけど、ほとんどが老人ばかりだった。

ちょっと難しそうな絵ばかりだから、若い人が少なくて珍しいみたい。チラチラとこっちを見てる人も少なくなかった。

「黙ってろ、颯兄。はったおすぞ」

阿弓が失礼なことを抜かす実兄に肘鉄砲を食らわす。

『目で殺す』という言葉がこの上ない程に似合っている目。怖いよ……?

「へいへい」

……しかしこの人、美術館が笑えるくらい似合わない。

少し前を歩く、コントのような榊兄妹のやり取りに、私は吹き出しそうになった。

「蝶羽ちゃん」

不意に、音遠くんに呼ばれた。

「な、何?」

顔が近いのと、さっきの『妹』の件で、声が上ずりそうになる。

「今日はカップルのフリするんでしょ?だったらもうちょっと引っ付いてないと」

腕と腕がぶつかる距離にくる音遠くん。

今朝も兄さんの容態をチェックしてたから、薬のにおいを消す為の、柑橘系の香水の良い香りがした。

「え?!」

「ほら、手。出して」

慌てる私と対称的に、音遠くんはニコニコと手を差し伸べる。

指、長いなぁ……

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