怪盗ダイアモンド
???side再び
【???side】
(さて、到着した訳だが)
駅からここまで直通の無料のバスを降りて、美術館を見上げた。
RPGのラスボスでも潜んでそうな雰囲気があるのは、一階建てなのに無駄に天井が高い造りだからなのか、あるいは単に私の背が低いからなのか。
それとも、これから何かが起こる前兆だからなのか。
……なんてね。
嘲笑を浮かべ、歩を進めた。
ガーッと開いた自動ドアを潜ると、受付嬢に目配せする。
「あ、こ、ここここんにちは!●●様!!しょ、そ、そのままお通り下さいましぇ、いえ、下さいませ!!」
「ありがとう」
私の名前もまともに言えないのか。
噛みすぎ。
相手が『私』とはいえ子供相手に、普通ここまでテンパる?
とりあえず、緊張して噛みまくる受付嬢にヒラヒラと手を振った。
私の地位を利用すれば、国の公共施設なら顔パスで通れるから、入館するに当たっての問題は皆無。
チケットも現金も不必要。
そのまま展示場には入らず、一旦私はトイレへと向かった。
周囲を見渡し、すぐさま鞄から変装セットを取り出して、洗面台の鏡に向かう。
金髪のゆるふわなウェーブがかったウィッグに、緑色のカラコンを装着。
そして身長稼ぎのシークレットブーツを履けば……よし。
鏡に向かって軽くウィンクを飛ばしてみる。
うん、なかなか良いじゃん。
我ながらいい出来だ。これで同一人物には見えるまい。
背はまだ低いけど、低身長の大人って言っても十分通用する。
そうして、今度こそ展示場に入った。
ここまで何も問題は無いし、これからやばい事が起こることもないだろうけど。
唯一の難点は、肝心の標的が見つからないということ。
一階建てだから回っていればいずれ見つかるだろうと甘く見ていたけど、この広さじゃ時間がかかりすぎそうだ。
どうしたものか……
と、一瞬考えたけど、人一人倒れたりしたらすぐ騒ぎになる。
その時に、どさくさに紛れて行けば良いか。何も急ぎの用件でもないし。
むしろその方が好都合だ。
たまにはのんびりと名画を見て回るのも悪くないね。
肩掛けカバンを掛け直し、私はまた歩き出した。