怪盗ダイアモンド
あ、これで怪盗の話と兄さんの話が繋がった。
確かに、風邪にしては様子がおかしかったけど……本当に呪いなの?
「呪いを解くには、『エインセル』っていう宝石が必要なんだけど、一度使うと解毒効果が切れて砕けて消えてしまうから、今は手元に残ってないの。
しかももう全部加工されて売られてて、自然な物は一つも残ってなくてね……」
エインセル……。確かギリシャ神話に出て来た妖精の名前だ。
「エインセルって、どんな宝石なの?」
母さんは、立ったままでいるのが疲れたらしく、床に座ってから答えた。
「それがねえ、コレっていうものはないのよ。形も大きさも、色も硬さも、今まで全部バラバラだったわ」
私も少し疲れたから母さんと向き合う形で座る。
「ええ?!じゃ、探しようが無いんじゃないの?」
「いいえ、そういう訳じゃないの」
少し表情を引き締めて、母さんは話した。
「エインセルは新月の夜の翌日に、朝日に翳すと妖精の姿が中に見えるわ。今までのエインセルの共通点はそれだけよ」
「……」
あー、何だか頭が混乱してきた……。
これ以上メルヘンチックな話をされても頭痛がするだけだ。話題を戻そう。
「で、なんで私をここに連れてきたの?そんなお伽話みたいな事を私に話す為に連れてきただけなわけ無いでしょ?」
「あら、何言ってるのよ蝶羽。あなたに怪盗の仕事を受け継いでもう為に、全部を教えるからに決まってるじゃない!」
「はあああああああああ?!?!」
何言い出すんだ、この人は!?
私が怪盗になる?!冗談じゃない。ごく普通の順風満帆な女子高生ライフに、こんなとんでもない障害物をぶち込みたくない!!
「嫌だよ!!怪盗なんてなりたくない!警察に捕まったらどうすんの?学校退学とか刑務所行きとかなんて絶対嫌!」
「そうならないように盗むのが怪盗でしょ?それに、私の娘だもの。蝶羽ならきっと大丈夫よ〜」
のんびりと答える母さん。でも、その眼は拒否権を与えてくれそうにない、真剣な眼だった。
確かに私は、運動神経抜群の阿弓に習ってちょびっとだけ空手をやった事はあるけど、あんなのチカン撃退レベルの護身術だ。
私はめげずに二つ目の提案を出す。
「持ち主に頼んで、貸してくださいって言うのは?」
「エインセルは宝石なのよ?高いのよ?そんなにホイホイ他人に貸すと思う?仮に貸してくれたとしても、後で消えちゃうのよ?」
た、確かに……
でも、まだ逃れられる可能性は……!!
「父さんか、母さんが怪盗に復帰して盗むってのはダメなの?」
「飛翔の看病と、雑貨屋の仕事があるわ。呪いのことを公にしたくないから、病院に連れていけないの」
「……」
ダメだ、もう逃れる道が無い。
がっくりと壁に凭れ掛かる私に、母さんがとどめを刺した。
「怪盗、やらなくてもいいわよ。飛翔が死んじゃっても良いならね」