怪盗ダイアモンド
阿弓side
【阿弓side】
何やってんだろ、兄さんの奴。
さっきから携帯を弄ったり、ウエストポーチの中身をしきりにこっそり確認したりしてて、落ち着きが無い。
まだ『仕事』が残ってんのかな?
それならなんで私に着いてきたのやら。
「兄さん、何やってんの?ヘタに動くと怪しまれるよ?」
「んー、もう容疑者の内に入ってるっぽいから別にいーよぉ」
「マジか……」
まぁ、周りは四十代以降のオジサンオバサンばっかり。
だから二十八歳という程良い若さで『盗む』という行為が簡単に出来そうな歳である上、初対面である颯馬兄さんを音遠くんが疑うのは無理もないか。
ま、こんなアホ全開の奴、疑わない方が変わってる。
「兄さんが無実だってのは、誰よりも私が知ってるから良いけど」
「うん、知ってる♡頼りにしてるよ♡♡やばい時は助けてね、きゅーちゃん♡♡♡」
うわ、キモっ。
アラサー男のハートマークなんて鳥肌しか立たねぇわ!
「知らねっ」
パーカーのポケットに両手を突っ込み視線を逸らす。
と、さっき蝶羽と音遠くんを煽ってた金髪碧眼の女と目が合う。
確か、フランス人の……イレーネさんとか言ってたか。
女は数秒、こっちを見てポカンとしてたけど、逃げるように私から離れた。
……えっ、待って、あの人どこかで……
こめかみをぐりぐりと押し、記憶を必死に絞り出す。
「―――あっ?!」
記憶の中で、一人の人物とあの女が重なった。
なんであんなカッコでこんな所にいんの、あいつ?!
「ちょっと、待って!!待て!!」
反射的に身体が動く。
私は弾かれるようにして走り出した。
「んえ、阿弓、どーした?」
「『あの人』がいたんだよ!!ちょっと追っかけてくる!!」
「マジかぁ〜、いってら〜」
兄さんがヒラヒラとお気楽に手を振った。