怪盗ダイアモンド
一緒に追うっていう選択肢はねぇのかよ、馬鹿!
そんな馬鹿を尻目に、私は彼女を追った。
ふぅっと疲れたような短い溜息を吐いてから、
「……殺す気でいくからな」
と、獲物を捕らえたような瞳で蝶羽達と亜希乃達を見て、そんなことを呟く兄に私は気が付かなかった。
「ねぇ!!おい!!聞こえてんだろ!!」
タン、タン、タン!
人気の無い、油絵の抽象画のコーナーに私と彼女の足音だけが響く。
その中を、私は全速力で駆ける。
相手は小さいから、小回りがきいてて無駄にすばしっこい。
追いかけっこをしてるうちに、さっきの場所から大分離れてしまった。
紫のライトに照らされ、視界がハッキリしない。
「ちょっと!!『リーダー』ってば!!」
「その呼び方で呼ぶなああぁぁぁア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!」
チワワみたいな高い声が一室に響き渡る。
……え、何キレてんのコイツ。
「ちょっと色々あって身分とか誤魔化してんの。ほっといてよ」
ぷうっと頬を膨らませる顔は、どんなに変装をしてても隠せない幼い顔だった。
「それなら一言声かけてくれりゃ良いのに。そしたら私も、事によっては協力したよ?」
「プライベートに近い事情だから、『仕事』とはまた違うの!」
は?プライベート?
「十代前半のガキが、偽名使って変装までして、何の用だよ」
小生意気に舌打ちをしてから、ウィッグとカラコンを外す彼女。
もう私の前で誤魔化す気が全く無いらしい。
「……『オトウト』の容態を見に、ね」
「弟?あんた弟なんていなかっ―――」