怪盗ダイアモンド
「蝶羽ちゃん」
また音遠くんに名前を呼ばれた。
今日は呼ばれる回数が多い気がするなぁ……
「あの絵があった壁、変な隙間があったよ」
「は?隙間?」
「うん」
飲み終わって空になったティーカップをトレーに戻し、音遠くんと現場へ向かうと―――
「……確かにおかしいね」
絵画があった場所の左右には、僅かに隙間があった。
厚めの画用紙一枚がギリギリ入りそうなくらいの幅の隙間。
覗くと向こう側に光が見えるから、溝じゃなくて隙間で間違いないみたい。
試しに押してみたけど、何かロックが掛かってるみたいで、ガタガタと音がするだけ。
「やっぱ鍵掛かってんのかな……」
「鍵?」
「うん、何か引っかかってるみたいに動かないの」
「開いたよ」
「は?」
「動くよコレ」
音遠くんが壁を押すと、どんでん返しの縦版みたいにユラユラ動いた。
「たぶんホワイトボードみたいな、縦に回転させられる仕組みなんだろうねー……、ちょっと調べた方がいいか」
「そうだね……じゃなくて!!」
淡々と話を進めようとする音遠くんの腕を掴む。
もう!ほんとどうしちゃったの音遠くん!
私の事やたら気にかけてると思ったらマイペースに事を進めるし!
「どうやったの、それ!」
「これ?ちょっとコレでね」
音遠くんが悪戯小僧みたいに笑いながら出したのは、一本のピン。
あ、これ母さんから渡された怪盗道具にもあった。
ピッキングに使う道具。
ペンチとかの工具を使って先の方をぐにゃぐにゃにして、鍵穴に刺して鍵代わりになるやつ。
音遠くんはペンチの代わりに自分の歯を使ったみたいだけど。
「僕だって白鳥家の親戚だからね。少しは蝶羽ちゃんを助けられる為に、天彦(あまひこ)さんに教わったよ」
天彦っていうのは、私の父さん。フルネームは白鳥 天彦。
昔は母さんと同じ世間を騒がした怪盗、現在は実家でやってる雑貨屋の店長やってる。