怪盗ダイアモンド
「アゲハ嬢!」
阿弓が血相を変えて私のところに行こうとした。
「動くな」
「うわっ?!」
瀬川さんがナイフを阿弓の首筋に当てて、それを阻止する。
いくら喧嘩の強い阿弓でも、刃物には勝てない。
「そうか、兄弟で共犯だったのか……」
今更ながら、音遠くんが呟いた。
「ひひっ、悪ぃな日ノ宮クン。ちょっくら逃げるのにキミ達が邪魔でねェ」
館長さん(偽)の今までの丁寧口調は周りを油断させる為だったみたいだ。
ニヤニヤと品のない口元からは、さっきまでと正反対の口調ばかり出てくる。
さっき私を撃った拳銃を、玩具みたいにくるくる回して楽しんでる彼は、私達に話しかけてくれた優しい人と同一人物だと思えなかった。
「ごめんねー亜希乃チャン。警部の娘であるキミと付き合うふりしてりゃ、容疑者に入んないと思ったんだけどヨ」
豹変した彼氏に驚きを隠せない亜希乃に、瀬川さんは煽るように嗤う。
館長さん(偽)はそのまま絵画を盗ると、兄と二人で出入口に後ずさる。
「フランス人のオネーチャン、悪いけど、防犯装置はオレが館長特権で切っちゃったんでね、警察は来ないよ」
「なっ……」
そういえば、三十分経ってるのに、警察は全然来ない。
「オレらがここを出てから三十分は、どこにも連絡しないようにネ。監視カメラあるから、連絡とってればすぐ分かっちゃうよー」
「もし連絡してたら、この娘殺しちゃうからね」
「……チッ」
阿弓は瀬川さんの腕の中で、抵抗できずに睨んでる。