怪盗ダイアモンド
私が手に取ったのは、赤紫色の猫耳が付いたシルクハット。それと、懐中時計。
私は不思議の国のアリスが好き。だからうちの雑貨屋の店名も『アリス・イン・ワンダーランド』にしてもらった。
この猫耳シルクハットと懐中時計は、チェシャ猫と帽子屋、それと、白ウサギみたいで可愛い。
「やっぱり蝶羽はアリス系なのねぇ〜。これなんかいいんじゃない?」
母さんが進めてきたのは、帽子屋のような、裾が長いジャケット。ところどころ、アリスの服のようなフリルがついてる。
私の好みど真ん中!!
「こんなのもあるわよ~?」
「うわ、それも可愛い!」
そんなこんなで、私の怪盗の衣装が決まった。
可愛いというより、全体を黒や紫でまとめた、怪しげな雰囲気の格好いいスタイルになった。
猫耳付きシルクハットに懐中時計、フリル付きでアーガイル模様の長めなジャケットに端を折ったハーフパンツ。
それと、白黒ボーダーのニーハイソックスとブーツ。
母さんに「猫耳があるなら猫尻尾も必要よね!」と言われたけど、恥ずかしいし邪魔になりそうだからすっぱり断った。
地毛である少しくせっ毛な腰までの長い髪は、そのまま下ろしている。
私は元々背が高いほうだから、長髪の男性に見えないこともない。
「似合ってるわ、蝶羽!性別不明の大怪盗って感じね!」
母さんがうっとりとした様子で私を携帯で連写する。
撮んな!!
「あとは、名前ね」
「名前?」
「怪盗としての名前よ~」
「私の名前が『蝶羽(あげは)』だから『怪盗バタフライ』とかで良くない?」
正直、目当ての宝石が獲れれば良いから、名前なんて何でも良いと思うんだけどなぁ。
「そぉれはダメよ~、今までにルビー、サファイア、トパーズ、エメラルドって来たんだから、宝石の名前じゃなくちゃ!」
「母さんたちは何でその名前にしたの?伝統なの?」
「んー、何となく?」
おい。
「じゃ、『怪盗ダイアモンド』とか?」
「あら良いわね。決定!」
おいおい。
適当に言っただけなのに!しかも一分足らずで決まっちゃったよ!
……まぁいいや。
20XX年、5月16日。この日から、私こと白鳥 蝶羽(しらとり あげは)は、『怪盗ダイアモンド』になった。