怪盗ダイアモンド
「はい」
「ありがと」
美味しそうに飲む彼女を隣に、僕もコーヒーを口にする。
ブラックじゃなくて微糖だけど、それでも苦い。
「僕はこうやって細かい作業も出来てるよ?味覚だって正常だ。不具合なんて……」
「私が貴方を外に出す際、約束したよね?」
ミルクティーを一口飲んでから、彼女はじっと僕を見る。
「『恋』はしないって」
うん。それは覚えてる。
「……してないよ、恋なんて。どんなものだかも分かんないし」
辞書を読んだり、漫画や小説を読んでみても、よく分からなかった。
初キスはレモンの味だとか、意中の人に会えないと心臓が痛くなるとか、僕にはさっぱりだ。
だから心配無いと思ってたんだけど。
「……もしかしたら、無自覚なのかもね」
自分で恋をしてるということが分かってないんだろう、と彼女は言う。
「……恋って、どんなもの?」
彼女がミルクティーを吹き出す。
え、僕何か変な事言った?
ゲホゲホとむせる彼女。
「っあー、その内分かるよ、多分。私からじゃ説明出来ない」
「マスター程の天才でも難しいの?」
「言葉で説明出来るものなら私は出来る。けどこれは感じたり考えたりするものだからね。フィーリングだよ、フィーリング」
ふぃーりんぐ……
難しいな。
「まぁ、自覚が無いならそれでいいや。自覚されるよりそっちの方が良い。故意じゃないなら良いよ、恋だけに」
「?」
「いや何でもないです。帰ろ」
彼女はぴょんとベンチから降りた。
「そうだ、宝石の件はどうなったの?」
「あんな状況で盗める訳ないだろ。それに、エインセルじゃなかったから大丈夫。空絵さんにも伝えておいたよ。蝶羽ちゃんは……友達が色々あったから、もう少し落ち着いてから言うけど」
「そか。それなら良かった」
僕達は二人並んで、帰路についた。