怪盗ダイアモンド
『怪盗』になってから次の日の朝。
「はあ~……」
「おはよー……どしたの蝶羽?元気無いみたいだけど」
「あ~、亜希乃おはよ……大丈夫、ちょっと寝不足なだけ」
☆
あのあと、母さんから徹夜で怪盗の極意を隅から隅まで叩き込まれた。
『いつエインセルを盗めるチャンスが来るか分かんないんだから!今から特訓するわよ!』
『えええええ?!』
『明日にでも見つかるかもしれないんだからね!飛翔が死んでも良いの?』
『〜~~っ!!!』
ここで兄さんの名前を出すのは卑怯だ!断れる訳がない!
そして、もし見つかった時の逃げ方、観客を楽しませるキザっぽいセリフ、変装の仕方と変装時の声の変え方……等等、『それ、必要?!』と思えるようなものまで一晩で全部覚えさせられた。
☆
眠くてこれから授業受けられる自信がないよ……
瞼が重くて、もう無理……
私は机に突っ伏した。
「アッキー、アゲハ嬢!おはよすー!……あれ?アゲハ嬢?どしたの?」
「あー、阿弓……おはよすー」
ちなみに阿弓は私のことを『アゲハチョウ』と引っ掛けて『アゲハ嬢』と呼び、亜希乃を『アッキー』と呼んでる。
「蝶羽、寝不足で眠いんだって」
「ふぅーん?」
阿弓のセリフが、何か隠しているようにヘラヘラしてる。
「じゃぁ、眠気覚ましに良い話聞く?」
「良い話?」
目だけちろっと阿弓の方へ向けると、彼女は鞄から何やらチラシと三枚のチケットを取り出した。
「じゃんじゃじゃーん!『世界最大のルビー、血の口紅(ブラッドルージュ)』が県立博物館で展示されるんだってよ!これチラシと入場チケット!」
「あ、それ知ってる!行きたいなって思ってたんだー!」
「ちぇっ、アッキーはもう知ってんのか。二人とも脅かそうと思ってたのに」
ルビーと聞いて、私の耳がぴくりと反応する。
もしかしたら、エインセルかもしれない!!
私はガバッと顔を上げた。
「おー、おきたー」
「アゲハ嬢って雑貨屋の娘だけあってさ、小物とかアクセとか作るの得意だし、キラキラしたもの好きじゃん?だからこーゆーの興味あったり、参考になるかなーって思ってさ!」
「え?『血の口紅(ブラッドルージュ)』ってアクセなの?」
「ちょっと派手目なブローチなんだよ。ほら、ここに写真載ってる」