君と花を愛でながら
食器を片付けて厨房を出るまでの間ずっと見られているみたいな気がして、ほんの僅かな時間なのに苦しくなるくらいに居心地が悪い。
「綾ちゃん」
「えっ」
それじゃあ、と声をかけてカウンターに戻ろうとしたら呼び止められてびくびくしながら後ろを振り向いた。
「今日、終わったら一緒に帰ろうよ」
「えっ、でも。駅と片山さんのおうちと、反対方向じゃ」
「いいでしょ、送るよ」
「いえ、あの……」
狼狽えながらも断り文句を探しているうちに、彼は重ねて言葉をつなぐ。
「いいでしょ、俺も綾ちゃんとちゃんと話す時間がほしいだけ」
そう言われると、自分が余りにも幼い理由で逃げているだけのように感じてまた、言葉を失った。
カウンターに戻った私が、余程憔悴した顔をしていたのだろうか。一瀬さんが少し首を傾げて言った。
「どうかしましたか?」