君と花を愛でながら


ここで働くまで、珈琲がこんなに美味しいとは思わなかった。
どちらかというと少し苦手で、砂糖やミルクを多めにいれて甘くしないと飲めなかったのに、今ならブラックでだって美味しく飲める。


それだけじゃない。
少しイライラした時や焦った時、落ち込んだ時、一瀬さんが度々淹れてくれる珈琲がなんだか安定剤代わりになっているような気がするくらい。


香りを深く吸い込むと、どんなに波立って心も次第に凪いでゆく。
そんな風に、感じるようになっていた。



「顔はあんなに無表情なのにな」



仏頂面で口を真一文字に結んだ怖い顔で淹れているのに。
そう思ったら、なんだか少し可笑しくて「ぷぷ」と笑いながら、また一口珈琲を味わった。


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