君と花を愛でながら

「それじゃ、お疲れ様です」



閉店時刻を迎えて、少しの後片付けを手伝った後はいつもどおり一瀬さんに促されて、鞄を手に取った。


一応……無視するわけにもいかないし。
厨房の方にも「お先に失礼します!」と声をかけて、返事も聞かずに早足で店を出た直後だった。



「待って待って! 綾ちゃん」



と、やっぱり呼び止められてしまった。



「片山さん、厨房のお片付け、いいんですか?」

「今日は合間にちゃんと終わらせた」

「明日の仕込みとか……」

「終わらせたってば」



なんとか逃げ道を探そうとする私に、片山さんは苦笑した。



「別にいきなり取って食わないって」



いくらなんでも、いきなり襲われるとかそんな心配をしてるわけじゃないんだけど……。


店の出口を出てすぐの軒下で、二人で立ち止まっていると店の中からもきっと丸見えだろう。
振り向いてガラス越しに店内に目を向けようとしたら、片山さんにいきなり頭を掴まれて方向転換させられた。



「わっ、な、何するんですか」

「はい、いちいちマスター見ないの」

「えっ」



図星を刺されて、どきんと鼓動が跳ねる。
方向転換させられた先には片山さんの顔があって、その向こう側には雨で濡れた街が外灯で照らされてきらきらしていた。



「綾ちゃん、何かあるとすぐマスターの方見るもんな。親鳥探してるひな鳥みたい」

「ひ、ひな……?」

「そろそろ巣立ちしません?」


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