君と花を愛でながら
私、そんなに一瀬さんの方見てるのかな。
そりゃ、一瀬さんは此処のマスターでオーナーなんだから、仕事してたらまずは一瀬さんに頼ることが多いのは当たり前だ。
たまに対処に困る時や、ブーケのことで相談したいときには当然一番にお伺いするわけだし。
「ほら、行こう」
「あっ……はい」
片山さんに背中を押された瞬間、やっぱり店を振り返りそうになって踏みとどまる。
仕事関係なく、一瀬さんに頼ろうとしてるのかな、私。
だとしたら、本当にひな鳥みたいなものだ。
心許ない、何かに一歩踏み出すときのような不安にやっぱり後ろを向きたくなって、空を見上げて誤魔化した。
「雨、上がってよかったですね」
「そう? 降ってたら相合傘出来たのに」
「えっ、それぞれ差したらいいじゃないですか」
「綾ちゃん冷たい」
えええ。
だってお互いちゃんと傘あるんだし、冷たいと言われても。
困った顔で隣を見上げると、またあの目で片山さんが見下ろしてくる。
くすぐったくなるような、怖いような。
とくとくと心臓が忙しなくなって、その感覚は決して嫌いなものではないんだけど、見つめられてもどう反応したらいいのかわからない。
「二人で傘差したら雨の音で遮られて話もできないでしょ」
だけど、また私を困惑させるような甘い言葉を言うのかと思ったら、至って普通のことでちょっと安心した。
「それもそうですね」
「相合傘もしたいけどね」
「はいはい」