君と花を愛でながら
「デートに行くなら、どこに行きたい?」
ああ、まただ。
また、逃げ出したくなるような空気が漂って、私は手をひっこめようとしたけれどその指先を捕まえられた。
「あ、あの、手……」
「どこがいい?」
「行ったことないから、わかんないです。それより手……」
駅はもうすぐそこなのに、こんな際々でまた片山さんは恋愛モードに入ってしまって、私はまた狼狽させられる。
「じゃあ、行先俺が決めていい? 今度の定休日空いてる?」
「空いてます……じゃなくてなんで行く流れになってるんですかっ」
「あ、流されなかったね……残念」
あはは、と片山さんが笑って恋愛モードがまた解ける。
ちょっとずつちょっとずつ、小出しにされてる気がするのは気のせいだろうか。
少し空気は緩んだけれど、その隙にしっかりと指を絡めて手を繋がれてしまった。
たかが、手だ。
片山さんの手に一切触れたことがないかと言ったらそんなことはないし、そんな狼狽えることでもない。
「植物園、ねえ。やっぱり綾ちゃん花が好きだね」
「あ、そ、ですね。植物園以外にも、バラ園とか藤が有名なお寺とか」
やっぱりその程度のことでいちいち過剰反応してるのは、私の方だけみたいで。
片山さんは、さらりと話を戻してしまう。
「もしかして、九尺ふじ? 聞いたことあるね」
「あ、知ってます? 嬉しい。ちょっと遠いのであんまり簡単には行けないですけどね。花の苗とかの市もやってて……あ、球根探したいなあ」
ふと、お店の前の空っぽの花壇を思い出してそう言った。
春の花に向けて、秋に何か植えようって一瀬さんが言ってた。
球根か苗か……どんなのがいいか一瀬さんにもう一度相談してみよう。
「じゃあ、梅雨が明けたらそういうの、見に行こうか」