君と花を愛でながら
ただただ、目頭が熱くて。
困惑する一瀬さんの顔を見て、唇を噛んだ。
一瞬の目線のやりとりを、片山さんに気づかれたのかはわからない。
「……了解。デザートプレート二つね」
溜息混じりの片山さんの声が酷く不機嫌だった。
一瞬だけ握られた手の圧力が強くなる。
それでも目を離せない私に、一瀬さんが少し目を伏せて言った。
「向日葵。梅雨が長引いたせいで開花が遅れているそうですよ」
「は? そうなの?」
「ええ。期間中でも少し後の方に行った方が良いでしょうね。咲いてない向日葵見ても仕方ないでしょう」
見るからに動揺している私のせいで気まずく澱んでいた空気が、ようやく少し流れ始める。
「そりゃそうか……じゃあ、八月入ってからのがいいかな」
残念そうな声と一緒に片山さんが立ち上がる。
漸く握られた手が解放されて、やっと肩の力が抜けた。
「片山さん、ごちそうさまでした」
作業台に向かう片山さんにそう言うと、背中を向けたままひらひらと片手を振った。
カウンターに戻ってすぐ、一瀬さんがぽつりと私に言った。
「見頃になるまでに、お返事したらいいでしょう。嫌なら嫌と言えばいい」
私の方をちらりとも見ずにそう言って、カップとソーサーをセッティングする。
「はい……すみません」
助けてもらったのか、突き放されたのかわからない。
だけど、一つだけわかってしまったことがある。
向日葵畑がいつ咲くのかよりも
一瀬さんにどう思われるか
そのことばかり気になって、仕方ない私がいることに気が付いてしまった。
『第四話 一途な向日葵 前編』
End