君と花を愛でながら


怯えた表情でぎゅっと目をつむった彼女を目の前に
ギリギリで我に返った。


まるで熱に浮かされるみたいな
ゆらゆらと纏わりつくような空気は別に、俺がわざと作ったわけじゃなかったんだ。


ただ、綾ちゃんがそう思ってくれたから、それに乗っかって誤魔化しただけ。
そのせいで、綾ちゃんの中で俺まで警戒対象に入っちゃったみたいだけど。


あー、あぶねーあぶねー。
綾ちゃんはダメだって。


可愛いけどさ。
真面目すぎて冗談で済まなくなるタイプだって、最初にそう思ったはずだろ。


そう思ったはずだ。
筈なんだよ。


それなのに。



「だめだぁ、俺。この年になって初恋かもって思うくらい浮かれてんだけど」

「は? キモ。頭大丈夫?」



女友達にそう言ったら、真剣に心配された。
いや、不気味なものを見るような眼だったかもしれない。

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