君と花を愛でながら
愛ちゃんが景気よくビールジョッキを呷り、ひと息に空にしてからテーブルに置く。
ここは近所の居酒屋の、カウンターからはちょっと離れたテーブル。
この店は大将が面白いからカウンター辺りの方がいつも人気がある。
「おかわり頼もうか?」
「いらない。それよりもう、行こうよ」
「え、もう帰んの?」
そっちから呼び出したくせに、まだ店に入って30分ほどしか経ってない。
だけど、愛ちゃんの言う『行こうよ』が決して帰るという意味ではないことは、ほんとはわかってる。
だけどさ。
「そうじゃなくって」
「だからさ。もう、そういうのは行かないってさっき言わなかった?」
愛ちゃんから連絡もらった時に、ちゃんと前置きしといたはずなんだけど。
そんな決意はすぐに揺らぐはずだと思われているらしい。
愛ちゃんの中で俺はきっと風船くらい軽いんだろな。